生態学に統一理論はあるか?
生態学の重鎮Samuel Scheinerのセミナーのため、環境学科のあるIrchelキャンパスに出かける(写真)。生態学のさまざまな分野に登場する人で、たとえばシロイヌナズナを生態学に用いたはじめの一人でもある。教科書を3冊引用してみた(私は生態学バックグラウンドではないので読んだことはない)。
Design and Analysis of Ecological Experiments
- 作者: Samuel M. Scheiner,Jessica Gurevitch
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr on Demand
- 発売日: 2001/04/26
- メディア: ハードカバー
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大げさなセミナータイトルに見合うだけの話で、質疑応答も実りあった。
理論Theoryは、物理のように数式である必要はなく、数個のproposition(命題とでも訳すか)からなる。そして、Theoryからたくさんのmodelが導かれる、というのが骨子。生物哲学として「役に立つ」類のものだと思う。
比較のために、進化学を考えてみる。すると、
○表現型や適応度に変異がある
○それは遺伝する
といったダーウィンの進化理論のpropositionをもとに、量的遺伝を考えるならΔZ = sh2というモデルが導かれ、1遺伝子2アレルなら Δp = (以下略)というモデルが導かれる。
では生態学はということで、種数と生産性の関係という古典的な問題を取り上げていた。これまでに、17ものモデルが論文になっていて、どれもそれなりに正しそうである。詳細は論文にゆずるが、少数のpropositionに整理でき、状況によっていろいろなモデルが導かれる、と考えられる。
Samuelは、いまはNSF(アメリカの文部科学省にあたる)で科学政策に携わる一方で研究も続けている。アメリカの科学の強さを支えているのは、Ph.D.をもって研究経験のある人々が官僚組織の上の方にいることだ。日本ではシステムが整っておらず、たとえばY先生のように傑出した個人に頼らざるを得ない。